ワンダヴィジョン
WandaVision / 2021年
『ワンダヴィジョン』はMCUフェーズ4初期のドラマシリーズであり、ヴィジョンを失ったワンダ・マキシモフが、その喪失を受け入れられず、無意識のうちに町一つを自分の理想の世界へ作り替えてしまう物語です。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でワンダは、自らの手でヴィジョンのマインド・ストーンを破壊して彼を殺した直後、サノスに時間を戻され、復活したヴィジョンをもう一度目の前で殺されました。さらにワンダ自身もデシメーションで消滅し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で5年後に復活します。しかし、サノスに消された人々は戻っても、指パッチン以前に死亡したヴィジョンは戻ってきません。
家族、双子の兄ピエトロ、故郷ソコヴィア、そしてヴィジョンまで失ったワンダ。その積み重なった喪失が限界へ達した結果、ニュージャージー州の町ウエストビューで巨大な現実改変が発生します。一見すると年代ごとのアメリカン・シットコムを再現した奇妙な作品ですが、その本質は、**「耐えられない現実から逃げるために作った幸福を、それが他人を傷つけていると知った時に手放せるのか」**というワンダの喪失と受容の物語です。
本作では、ワンダが正式にスカーレット・ウィッチとなり、能力の正体がカオス・マジックであることが判明します。さらにアガサ・ハークネス、ダークホールド、ビリーとトミー、ホワイト・ヴィジョン、S.W.O.R.D.、能力を得るモニカ・ランボーなど、フェーズ4以降へつながる重要要素が数多く登場します。
詳しいあらすじ
1. 白黒のシットコム世界で暮らすワンダとヴィジョン
物語は1950年代のアメリカン・シットコムのような白黒映像から始まります。ワンダ・マキシモフとヴィジョンは新婚夫婦としてニュージャージー州ウエストビューへ引っ越し、ヴィジョンは会社員、ワンダは主婦としてごく普通の家庭生活を送っています。隣人のアグネスも頻繁に家を訪れ、二人の生活は一見すると平和そのものです。
しかし、二人には「なぜここへ引っ越してきたのか」「いつ結婚したのか」という基本的な記憶がありません。ヴィジョンの上司ハート夫妻を家へ招いた夕食では、ハートが突然「なぜここへ来た?」と繰り返し問い始め、やがて喉を詰まらせます。妻は笑顔のまま「やめて」と繰り返し、明るいシットコムの空気の中に不気味な異常が現れます。ワンダがヴィジョンへ「助けて」と命じると、ようやく物語が再び動き出します。
この時点から、ウエストビューが普通の現実ではないこと、そして何かがおかしくなった時にワンダの意思が世界へ影響していることが示されています。


2. 外の現実がシットコムへ入り込む
世界は1960年代風へ変わり、ワンダとヴィジョンは地域のマジックショーへ参加するなど、町へ馴染もうとします。しかし異常は少しずつ増えていきます。庭からは白黒世界には不自然な赤と黄色のおもちゃのヘリコプターが見つかり、ドッティと話している最中にはラジオから「ワンダ、誰が君にこんなことをしている?」という男性の声が聞こえます。
その声の主は外の世界にいるジミー・ウーですが、この時点のワンダには意味が分かりません。さらにマンホールから防護服姿の人物が現れると、ウエストビューの世界に合わせるように養蜂家の姿へ変換されています。ヴィジョンが困惑する一方、ワンダは男を見た瞬間に「NO」と拒絶し、時間そのものを巻き戻します。
ここで重要なのは、ワンダが単に誰かに閉じ込められているのではなく、自分にとって都合の悪い現実を排除し、世界をやり直す力を持っていると明確になることです。その直後、世界は白黒からカラーへ変化します。


3. 異常な妊娠とビリー、トミーの誕生
1970年代風となった世界で、ワンダは妊娠します。しかし妊娠は通常では考えられない速度で進み、短時間のうちに出産を迎えます。そこへ「ジェラルディーン」と名乗る女性が現れ、結果的に出産を手伝います。ワンダは双子の男の子を出産し、ヴィジョンと相談してビリーとトミーと名付けます。
夢に見たような家庭が完成し始めますが、ジェラルディーンはワンダに双子の兄がいたこと、そしてピエトロがウルトロンに殺されたことを口にします。さらに彼女のペンダントには、ワンダが知らない剣のようなマークが刻まれていました。現実の記憶へ触れられたワンダは態度を一変させ、ジェラルディーンを能力でウエストビューの外へ吹き飛ばします。
ジェラルディーンの本名はモニカ・ランボー。ここから物語は、シットコムの内側だけでなく、その外で何が起きているのかを描き始めます。



4. モニカ・ランボーとブリップ後の世界
『キャプテン・マーベル』で少女だったモニカは、サノスの指パッチンによって消滅していました。『エンドゲーム』でハルクが消えた人々を戻した瞬間、モニカも病院で復活します。しかし彼女にとっては数分しか経っていないのに、現実では5年が経過しており、母マリア・ランボーはその間に癌で亡くなっていました。
モニカは母が設立に関わった組織S.W.O.R.D.へ復帰し、代理長官タイラー・ヘイワードから地上任務を命じられます。彼女が向かったのが、FBI捜査官ジミー・ウーが担当する「ウエストビュー失踪事件」です。証人が住んでいるはずなのに連絡が取れず、周辺住民はなぜか「ウエストビューという町は存在しない」と認識していました。
現地を調べたモニカは巨大なエネルギーの壁へ触れ、そのまま内部へ吸い込まれます。大切な人を失った直後の世界へ戻されたモニカは、後に同じく喪失に苦しむワンダを理解する重要な人物になっていきます。


5. S.W.O.R.D.が発見した「テレビ番組」
S.W.O.R.D.はウエストビュー周辺へ基地を設置し、異常現象の分析を開始します。そこへ呼ばれた天体物理学者ダーシー・ルイスは、障壁から特殊な電波が放出されていることに気づきます。テレビへ接続すると、映し出されたのはワンダとヴィジョンが出演するシットコムでした。
外の世界から見ると、ウエストビューで起きている出来事そのものがテレビ番組として放送されています。さらにS.W.O.R.D.が番組の登場人物を調べると、アグネスたちの多くは架空のキャラクターではなく、実際にウエストビューで暮らしていた住民だと判明します。彼らは何らかの力によって人格を抑え込まれ、シットコムの役を演じさせられていました。
ジミーのラジオ通信、地下から侵入した隊員が養蜂家へ変えられたこと、モニカが「ジェラルディーン」という登場人物になったことも、すべて同じ現象です。現実世界から侵入したものは、ウエストビューの設定に合う形へ強制的に書き換えられているのです。

6. ワンダが見た「死んだヴィジョン」
ウエストビューから吹き飛ばされたモニカは、自分を追放したのがワンダだったと証言します。一方内部では、ワンダがほんの一瞬だけヴィジョンの本当の姿を見ます。額は破壊され、身体から色が失われ、『インフィニティ・ウォー』でサノスに殺された直後の死体のような姿です。しかしワンダはその現実を拒絶し、再び生きているヴィジョンの姿へ戻します。
ここで本作の核心が見え始めます。ワンダが求めているのは世界征服ではありません。ヴィジョンが生きていて、二人が普通の夫婦として暮らし、子供たちと家族になれる人生です。それが現実には存在しないため、彼女は現実そのものを作り替えています。
7. 成長する双子と疑い始めるヴィジョン
1980年代風の世界となり、ビリーとトミーは赤ん坊から突然5歳、さらに10歳へと自分たちを成長させます。二人にも普通ではない力があることが示され始める一方、ヴィジョンはウエストビューへの疑念を強めます。
職場の同僚ノームへ能力を使うと、彼は一時的にワンダの精神支配から解放され、恐怖に取り乱しながら「家族に会いたい」「彼女を止めてほしい」と訴えます。ヴィジョンはワンダを問い詰め、町の住民を支配しているのか、自分自身の記憶まで操作しているのかと迫ります。
しかしワンダは、この世界がどう始まったのかを完全には理解していません。世界を維持しているのはワンダでも、その発生自体は計画的ではなかったという点が、本作後半の重要な謎になります。

8. S.W.O.R.D.とワンダの対立
ヘイワードはワンダを危険なテロリストとして扱い、S.W.O.R.D.本部の監視映像を使って「ワンダがヴィジョンの遺体を奪った」と説明します。さらにウエストビュー内部へ送ったドローンを利用し、ワンダへミサイル攻撃まで仕掛けます。
激怒したワンダは自ら障壁の外へ出現し、壊れたドローンをS.W.O.R.D.へ投げ返します。そして「干渉しなければこちらから危害は加えない」と警告します。対してモニカは、ワンダを単なる敵とは見ません。自分も母を失った経験があるため、ワンダが何かを征服したいのではなく、喪失から逃げているのだと理解し始めています。

9. 突然現れる「ピエトロ」
ワンダとヴィジョンが激しく口論している最中、家のチャイムが鳴ります。そこに立っていたのは、死んだはずの兄ピエトロ・マキシモフでした。しかし『エイジ・オブ・ウルトロン』で死亡したピエトロとは別の顔をしています。
しかもその姿は、FOX版『X-MEN』シリーズでクイックシルバーを演じたエヴァン・ピーターズです。視聴者には「別世界のピエトロなのではないか」と思わせる大きなミスリードですが、ワンダ本人も違和感を持っています。それでも失った兄を取り戻したい気持ちから、完全には拒絶できません。

10. 町の外れで止まっている住民たち
ハロウィーンの日、ヴィジョンはワンダに隠れて町の外れへ向かいます。中心部では住民たちが普通に生活していますが、端へ進むほど人々の動きは少なくなり、同じ動作を延々と繰り返す者や、ほとんど動けない住民まで現れます。
つまりワンダが意識を向けていない場所では、シットコムとして必要な最低限の動きしか与えられていないのです。ヴィジョンは車の中で止まっているアグネスを発見し、一時的に支配を解除します。アグネスはヴィジョンを見て「あなたは死んでいる」と告げます。
自分がウエストビュー以前に何者だったのか分からないヴィジョンは、真実を知るため障壁の外へ出ようとします。

11. ヴィジョンを失う恐怖がヘックスを拡大させる
ヴィジョンが障壁を突破すると、身体が少しずつ崩壊し始めます。このヴィジョンはウエストビューの現実改変と深く結びついており、外では存在を維持できません。その危機をビリーが能力で察知します。
ヴィジョンが再び死ぬことを恐れたワンダは巨大な力を解放し、ウエストビューを覆う障壁――後にヘックスと呼ばれる領域――を一気に拡大します。S.W.O.R.D.の基地まで飲み込み、隊員や設備をサーカスの世界へ変換。ヴィジョンは再びヘックス内部へ戻され、助かります。
しかしこれは、ワンダが自分の幸福を守るために、さらに多くの人々を現実改変へ巻き込んだ瞬間でもあります。


12. モニカ・ランボーの能力覚醒
モニカはワンダを説得するため、再びヘックスへ入ることを決意します。ダーシーは、彼女がすでに複数回障壁を通過したことで細胞そのものが変化していると警告します。それでもモニカは自ら障壁を突破します。
その過程で身体がさらに変化し、エネルギーを視覚化したり、ワンダの攻撃へ耐えたりする超人的な能力を獲得します。『キャプテン・マーベル』でキャロルに憧れていた少女が、本作では自分自身の力を持つ存在へ変化します。
モニカはワンダへ「気持ちは理解できるが、この世界は間違っている」という立場から向き合います。しかしワンダは受け入れられず、そこへアグネスが現れて彼女を連れ出します。


13. アグネスの正体――アガサ・ハークネス
アグネスの家からビリーとトミーが消え、地下室へ向かったワンダを待っていたのは、魔女としての正体を現したアガサ・ハークネスでした。アガサは長い年月を生きる魔女で、ウエストビューで発生した巨大な魔法の正体を探るため、「アグネス」として物語へ入り込んでいました。
偽のピエトロを送り込んだのもアガサです。その正体は別世界のピエトロではなく、ウエストビューの住人ラルフ・ボーナーを魔法で操ったものでした。さらにアガサは魔女の世界に伝わる禁断の書ダークホールドを所有しています。
ただし、ヘックスを作った黒幕はアガサではありません。 アガサ自身も「ワンダはどうやってこれほど巨大な魔法を使ったのか」を知るために近づいていたのです。


14. ワンダの幼少期――シットコムが幸福の象徴になった理由
アガサはワンダの記憶を一つずつ再現させます。幼いワンダとピエトロはソコヴィアで両親と暮らし、家族でアメリカのシットコムを見る時間を楽しんでいました。しかし戦争によって自宅が爆撃され、両親は死亡。瓦礫の中へ落ちてきたのがスターク・インダストリーズ製のミサイルでした。
ワンダとピエトロは爆発するかもしれないミサイルを前に何日も動けずに過ごします。ここでアガサは、幼いワンダがミサイルを不発にするため無意識に確率を操作する魔法を使った可能性を指摘します。
つまりワンダの能力はヒドラの実験でゼロから生まれたわけではありません。もともと魔法の素質を持っており、マインド・ストーンとの接触によって潜在能力が大幅に増幅されたのです。


15. ヴィジョンがワンダの悲しみに寄り添った日
次に再現されるのは、『エイジ・オブ・ウルトロン』後のアベンジャーズ施設です。故郷とピエトロを失ったワンダは一人で部屋にこもり、悲しみに沈んでいました。そこへヴィジョンがやってきます。
人工生命体であるヴィジョンは人間の悲しみを完全には理解できません。それでも彼女のそばへ座り、悲しみについて考えます。ワンダにとってヴィジョンは単なる恋人ではなく、家族を次々と失った人生の中で、悲しみを消そうとせず初めて一緒に抱えてくれた存在でした。
だからこそ『インフィニティ・ウォー』でヴィジョンを二度失ったことが、ワンダにとって決定的な喪失となります。本作のシットコム世界は、ヴィジョンと一緒なら得られたかもしれない「普通の家庭生活」を再現したものでもあります。

16. ヴィジョンの遺体とヘイワードの嘘
『エンドゲーム』後、復活したワンダはS.W.O.R.D.を訪れ、ヴィジョンの遺体と対面します。施設ではヴィジョンの身体が複数の部品へ分解され、研究対象として扱われていました。ヘイワードはヴィジョンを非常に高価な兵器として扱い、その身体をワンダへ渡すことを拒みます。
ワンダはガラス越しに遺体へ近づき、力でヴィジョンを感じようとします。しかし何も感じません。**「彼はいない」**という現実だけが残り、ワンダは遺体を奪うことなく施設を去ります。
つまりヘイワードが後に示した「ワンダがヴィジョンの遺体を強奪した」という印象は事実ではありません。むしろヴィジョンの身体を兵器として再利用しようとしていたのは、S.W.O.R.D.側でした。

17. 「二人の家」があるはずだった場所
ワンダは一枚の土地権利書を頼りにウエストビューへ向かいます。そこには何も建っていない土地があり、ヴィジョンが生前、二人で暮らすために購入していた場所でした。書類には、二人でここで年を取ろうという意味のメッセージが残されています。
家族を失い続けてきたワンダにとって、それは初めて手に入りかけていた「自分の家庭」でした。しかしヴィジョンはもういません。ワンダはその場で崩れ落ち、抑えていた悲しみが限界へ達します。
すると身体から膨大な魔力が放出され、町全体が現実改変されます。住民たちはシットコムの登場人物へ変化し、何もなかった土地には家が完成。そしてワンダの前に、新たなヴィジョンそのものが創造されます。 ワンダは死体を蘇らせたのではなく、悲しみと魔法から新しい存在を生み出していたのです。



18. 「スカーレット・ウィッチ」の正体
ワンダの記憶を見終えたアガサは、その能力の異常さを理解します。通常の魔女なら魔法には呪文や準備が必要ですが、ワンダは町一つを無意識に作り替え、何千人もの精神を支配し、さらにヴィジョンや双子という存在まで創造しています。
アガサはこの力をカオス・マジックと呼び、ワンダを**「スカーレット・ウィッチ」**と呼びます。MCUではここで初めて、スカーレット・ウィッチが単なるヒーロー名ではなく、魔術世界に伝わる特別な存在の名だと明かされます。
19. ホワイト・ヴィジョンの起動
一方ヘイワードは、回収したヴィジョンの遺体を兵器として再起動するカタリスト計画を進めていました。しかしオリジナルの身体を再起動するには十分な動力源がありません。
そこで利用されたのが、以前ワンダがS.W.O.R.D.へ返したドローンに残っていたカオス・マジックのエネルギーです。その力を注入することで、白い身体を持つホワイト・ヴィジョンが起動します。
ヘイワードが「ワンダがヴィジョンを危険な兵器として蘇らせた」と非難している裏で、実際にヴィジョンの遺体を兵器へ変えていたのはS.W.O.R.D.でした。

20. 住民たちの苦しみとワンダの選択
アガサはワンダの精神支配から住民たちを一時的に解放します。すると彼らはワンダへ殺到し、自由に身体を動かせないこと、家族に会えないこと、眠っている間にはワンダの悪夢まで感じることを訴えます。
ワンダは初めて、自分が与えていると思っていた幸福が他人にとっては苦痛だったと真正面から理解します。彼女は障壁を開いて住民を解放しようとしますが、ヘックスが消え始めると同時にヴィジョン、ビリー、トミーの身体も崩れ始めます。
つまり町を解放することは、自分の家族をもう一度失うことを意味します。ここでワンダは、本作を通じて逃げ続けてきた選択を迫られます。
21. ワンダ対アガサ、ヴィジョン対ホワイト・ヴィジョン
アガサの目的は、ワンダのカオス・マジックを奪うことでした。戦いの中でアガサは、結界にルーン文字を刻めば、その空間では刻んだ魔女以外は魔法を使えないと説明します。ワンダは一度追い詰められたように見えますが、実際には戦いながらヘックスの壁へルーンを刻んでおり、アガサ自身から教えられたルールを利用して逆転します。
ワンダは奪われた力を取り戻し、ついにスカーレット・ウィッチとしての姿へ覚醒します。そしてアガサを殺さず、彼女が演じていた「おせっかいな隣人アグネス」の人格へ戻してウエストビューへ残します。
一方、二人のヴィジョンも戦います。ホワイト・ヴィジョンにはヴィジョンを破壊する命令が与えられていましたが、ヘックスのヴィジョンは単純な力比べではなく、テセウスの船という思考実験を使って「本物のヴィジョンとは何か」を問いかけます。ヘックスのヴィジョンはワンダの記憶と魔法から作られた存在、ホワイト・ヴィジョンは本物の肉体を持ちながら記憶を失った存在です。
最終的にヘックスのヴィジョンは、ホワイト・ヴィジョンの封じられていた記憶を解放します。『エイジ・オブ・ウルトロン』での誕生、アベンジャーズとしての時間、ワンダとの関係、そしてサノスに殺された瞬間までを思い出したホワイト・ヴィジョンは、自分がヴィジョンであると理解して飛び去ります。


22. 家族を自分の意思で手放すワンダ
戦いが終わった後、ワンダはついにヘックスを消す決断をします。それはウエストビューを元に戻すだけではなく、自分が生み出したヴィジョン、ビリー、トミーも消すという選択です。
ワンダとヴィジョンは双子をベッドへ寝かせ、ワンダは二人へ「自分を母親にしてくれたこと」への感謝を伝えます。その後、家の中でヴィジョンとも最後の時間を過ごします。ヴィジョンが「自分は何者なのか」と尋ねると、ワンダは彼を、自分の中に残ったマインド・ストーンの一部であり、自分が作った身体であり、自分の悲しみ、希望、そして何より愛そのものだと説明します。
ヘックスは少しずつ縮小し、家も、双子も、ヴィジョンも消えていきます。ワンダだけが何もない土地へ残されます。物語序盤のワンダは辛い現実が現れるたびに「NO」と言って時間を戻しました。しかし最後には、理想の幸福を維持できる力を持ちながら、自分の意思でその世界を終わらせます。
町は元へ戻り、住民たちはワンダを厳しい目で見つめます。彼女に悪意がなかったとしても、人々の自由を奪い、苦しめた事実は消えません。モニカだけは彼女の喪失を理解しますが、ワンダ自身も自分が人々を傷つけたことを認め、ウエストビューを去ります。


ミッドクレジット
事件後、モニカは一人の女性に呼び出されます。しかしその女性は正体を現し、スクラル人だったことが判明します。
スクラルはモニカへ、「母マリアの古い友人があなたに会いたがっている」と伝え、その人物が宇宙にいることを示します。ニック・フューリーを示唆する場面であり、モニカの物語が地球から宇宙へ広がっていくことを示しています。

ポストクレジット
ワンダは人里離れた山中の小屋で静かに暮らしています。しかし別室では、アストラル体のワンダがダークホールドを読んでいます。 アガサから奪った魔術書を使い、自分の力とスカーレット・ウィッチについて学んでいるのです。
その最中、ヘックスとともに消えたはずのビリーとトミーの「助けて」という声が聞こえます。このダークホールドの研究と子供たちへの執着が、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』におけるワンダの行動へ直接つながります。

主要キャラクターまとめ

ワンダ・マキシモフ / スカーレット・ウィッチ
本作の主人公。ソコヴィアで両親を失い、ピエトロを失い、最後にはヴィジョンまで失ったことで、長年積み重なっていた悲しみが限界へ達します。
本人が最初から計画していたわけではなく、ヴィジョンと暮らすはずだった土地で感情が爆発し、無意識にウエストビュー全体を現実改変しました。本作では幼い頃から魔術の素質を持っていたこと、マインド・ストーンはその能力を強化した存在だったことが判明し、最終的にカオス・マジックを扱うスカーレット・ウィッチとして覚醒します。

ヴィジョン
ヘックス内部に存在するヴィジョンは、『インフィニティ・ウォー』で死亡した身体そのものではなく、ワンダがカオス・マジックによって創造した新しい存在です。そのためウエストビュー以前の記憶を持たず、自分が何者なのかを探していきます。
物語が進むほどワンダの作った世界へ疑問を持ち、最後には住民を解放するためワンダと対立することも選びます。最終的にヘックスとともに消滅しますが、ホワイト・ヴィジョンへ自分の記憶を解放します。

モニカ・ランボー
『キャプテン・マーベル』に登場したマリア・ランボーの娘。ブリップから戻ったことで、自分が消えていた5年間に母が亡くなった事実へ突然直面します。
ワンダとは「大切な人を突然失った」という共通点を持つため、S.W.O.R.D.の中でも特に彼女の感情を理解します。ヘックスを複数回通過したことで身体が変化し、エネルギーを感知・吸収する特殊能力を獲得します。

アガサ・ハークネス
長い年月を生きる魔女。ウエストビューで発生した巨大な魔法を察知し、「アグネス」として内部へ潜入します。
本作の敵ではありますが、ヘックスを作った黒幕ではありません。むしろアガサがワンダの記憶を探ったことで、ワンダ自身も初めて「なぜこの世界を作ったのか」「自分の力は何なのか」を理解します。ワンダのカオス・マジックを奪おうとして敗北し、最後はアグネスの人格へ固定されます。

ジミー・ウー
『アントマン&ワスプ』から再登場するFBI捜査官。ウエストビュー失踪事件を最初に調査し、モニカ、ダーシーとともにヘイワードとは異なる立場から事件を解決しようとします。

ダーシー・ルイス
『マイティ・ソー』シリーズから再登場。現在は天体物理学者となっており、ウエストビューからシットコム形式の電波が放送されていることを最初に発見します。外の世界で起きた出来事をヴィジョンへ伝える役割も担います。

タイラー・ヘイワード
S.W.O.R.D.代理長官。ワンダを危険人物として排除しようとする一方、裏ではヴィジョンの遺体を兵器として再起動するカタリスト計画を進めています。ワンダの魔力を利用してホワイト・ヴィジョンを起動します。


ビリー&トミー
ワンダとヴィジョンの双子。ビリーはワンダに似た魔術・精神感知能力を持ち、トミーはピエトロに似た超高速能力を持ちます。ヘックス消滅とともに姿を消しますが、ポストクレジットでワンダが二人の声を聞いたことで、物語がまだ終わっていないことが示されます。
重要アイテム・組織
ヘックス
ワンダがウエストビュー全体を覆った巨大な現実改変領域。内部の物質、人間、服装、時代設定まで書き換えることができます。
単なる幻覚ではなく、現実そのものを物理的に変換していることが重要です。さらにヴィジョンやビリー、トミーといった存在まで内部に生み出しています。
S.W.O.R.D.
モニカの母マリア・ランボーが設立に関わった組織。地球外・特殊兵器などを扱っており、本作ではウエストビュー事件の調査を担当します。
ヘイワードのもとではヴィジョンの兵器化が進められており、S.H.I.E.L.D.とは異なる新たな政府系組織としてフェーズ4に登場します。
ダークホールド
アガサが所有していた禁断の魔術書。スカーレット・ウィッチについても記されており、本作終了後はワンダが所有します。
ワンダはポストクレジットでダークホールドを使って魔術を学んでおり、その後の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で極めて重要な存在となります。
ホワイト・ヴィジョン
S.W.O.R.D.がオリジナルのヴィジョンの遺体を再構築した存在。身体は本物ですが、当初は記憶と人格を失い、「ヴィジョンを破壊する」という命令に従っています。
ヘックスのヴィジョンによって過去の記憶を復元され、そのまま生存して物語から離脱します。つまり本作終了時点で、オリジナルの身体と記憶を持つヴィジョンはどこかに存在していることになります。
MCU的に重要なポイント
1. ワンダが正式に「スカーレット・ウィッチ」になる
これまでワンダは強力な能力者として活動していましたが、本作でスカーレット・ウィッチが魔術世界に伝わる特別な存在だと判明します。フェーズ4以降、ワンダはアベンジャーズの一員という枠を越え、MCUの魔術・マルチバース領域を動かす中心人物になります。
2. ワンダの力はマインド・ストーンだけが原因ではない
幼少期から魔法を使っていた可能性が示され、マインド・ストーンはワンダの潜在能力を拡大した存在として整理されます。『エイジ・オブ・ウルトロン』以前から、ワンダには魔女としての素質があったことになります。
3. カオス・マジックと現実改変能力
ワンダは町一つの物質、住民の精神、さらにはヴィジョンや子供まで作り出します。本作によって、ワンダは単なる念動力や精神操作の能力者ではなく、現実そのものを書き換えることのできる存在へ設定上大きく拡張されます。
4. モニカ・ランボーが能力を獲得
『キャプテン・マーベル』の少女モニカが、本作で能力者へ変化します。ミッドクレジットでは宇宙側の物語へ呼び出され、後の『マーベルズ』へつながります。
5. ヴィジョンは完全には消えていない
ヘックスのヴィジョンは消滅しますが、オリジナルの身体を持つホワイト・ヴィジョンは記憶を取り戻して生存しています。『インフィニティ・ウォー』で死亡したヴィジョンの物語は、本作でも完全には終わっていません。
6. ビリーとトミーの存在
ワンダの双子がMCUへ登場します。ヘックス内だけの存在と思われましたが、ポストクレジットでワンダが二人の声を聞いたことにより、その存在がマルチバースを含むさらに大きな物語へつながります。
7. ダークホールドがワンダの手に渡る
本作終了時点でワンダはダークホールドを所有し、独学で魔術を学び始めています。これは『マルチバース・オブ・マッドネス』でワンダが大きく変化している理由へ直接つながります。
作品のテーマ
『ワンダヴィジョン』最大のテーマは、喪失と悲しみを受け入れることです。
ワンダはこれまで両親、故郷、ピエトロ、ヴィジョンと、大切なものを何度も失ってきました。それでも敵がいる間は戦い続けることができました。しかしヴィジョンの死の後には「倒せば解決する敵」がいません。そこで初めて、ワンダは悲しみそのものと向き合わなければならなくなります。
普通の人間なら、失った人を取り戻せないという現実を受け入れるしかありません。しかしワンダには本当に現実を作り替えられる力があります。そのため本作で問われるのは、「取り戻せる力があったとしても、その幸福が他人を傷つけているなら手放せるのか」という問題です。
ワンダが本当に成長したのは、アガサを倒した瞬間ではありません。愛するヴィジョンと子供たちを再び失うと分かっていながら、自らヘックスを消した瞬間です。悲しみが消えたわけでも、完全に立ち直ったわけでもありません。それでも、悲しみから逃げるために他人の人生を犠牲にする世界を終わらせることを選びました。
まとめ
『ワンダヴィジョン』は、年代ごとのシットコムを再現する異色のMCU作品ですが、その中心にあるのは、ヴィジョンを失ったワンダが現実を受け入れるまでの物語です。
ワンダはヴィジョンが生きていて、二人に子供がいて、普通の家族として暮らせる世界を本当に作り出しました。しかしその幸福は、ウエストビューの住民から自由を奪うことで成立していました。アガサとの戦いを通して自分の力がカオス・マジックであり、自分がスカーレット・ウィッチであると知ったワンダは、最終的にその力で理想の世界を守るのではなく、自らの意思で終わらせます。
同時に、モニカの能力覚醒、ホワイト・ヴィジョンの誕生、ビリーとトミー、ダークホールドなど、フェーズ4以降へつながる重要要素を大量に残します。本作はワンダを「強力なアベンジャーズの一員」から、MCUの魔術とマルチバースを動かす中心人物スカーレット・ウィッチへ変える作品であり、『エンドゲーム』後のフェーズ4を本格的に始動させる重要作です。

