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ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのポスター

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス

Doctor Strange in the Multiverse of Madness / 2022年

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はMCU公開順第28作、フェーズ4の作品であり、マルチバースを移動する力を持つ少女アメリカ・チャベスを守るため、ドクター・ストレンジが別世界の自分たちと向き合いながら、ダークホールドに侵食されたワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチと戦う物語です。

『ドクター・ストレンジ』の続編であると同時に、『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』『ワンダヴィジョン』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の流れを受け継ぎます。ストレンジには「自分が最善の判断を下す」という性格が残り、ワンダはヴィジョンと双子ビリー、トミーを失った悲しみから抜け出せていません。マルチバースは二人に「別世界なら望んだ人生が存在する」という誘惑を与えます。

本作ではアメリカ・チャベス、Earth-838、イルミナティ、ドリームウォーク、インカージョン、ヴィシャンティの書、ワンダゴア山などが登場。マルチバースを単なる別世界ではなく、干渉を誤れば宇宙同士を滅ぼしかねない危険な仕組みとして本格的に描く重要作です。


詳しいあらすじ

1. 別世界のストレンジとアメリカ・チャベス

物語は、別世界のドクター・ストレンジと少女アメリカ・チャベスが、異世界の狭間で怪物から逃げる場面から始まります。二人が目指すのは、悪に対抗する力を与えるヴィシャンティの書でした。

しかし追い詰められたストレンジは、アメリカの力を奪えば危機を止められると判断します。彼女が死ぬ可能性を承知で「マルチバース全体のためには仕方がない」と犠牲にしようとするのです。直後に彼は怪物に殺され、恐怖に反応したアメリカが星形のポータルを開きます。

このディフェンダー・ストレンジは、後に616のストレンジ自身へ突きつけられる「大局のためなら自分が他人の運命を決めてよいのか」という問いを最初に示します。


2. クリスティーンの結婚式

Earth-616のスティーヴン・ストレンジは、この出来事を夢として見て目覚めます。その日は元恋人クリスティーン・パーマーの結婚式でした。

二人は穏やかに会話しますが、クリスティーンは、ストレンジが常に「自分がナイフを握る」ことを必要としていたため関係を続けられなかったと振り返ります。そして「幸せなの?」と尋ねます。世界を何度も救った英雄であっても、ストレンジ自身が幸福かは別問題でした。

本作ではここから、**「別の人生なら幸せだったのではないか」**という後悔が、ストレンジとワンダ双方の物語を動かしていきます。


3. ガルガントスとアメリカ

結婚式の最中、ニューヨークに巨大な一つ目の怪物ガルガントスが出現します。標的は、ストレンジが夢で見たアメリカでした。

ストレンジとウォンが怪物を倒すと、アメリカは自分がマルチバースを移動できる存在だと説明します。恐怖が高まると星形のポータルが開き、これまで何度も別宇宙へ逃げてきました。

さらにアメリカには別世界の自分が存在しないらしく、彼女自身は夢を見ません。本作では夢が「別宇宙にいる自分の人生を垣間見る現象」だと説明され、冒頭でストレンジが見た出来事も別宇宙で実際に起きていたと判明します。


4. 黒幕はワンダだった

ガルガントスの死体から魔術の痕跡を見つけたストレンジは、魔術に詳しいワンダ・マキシモフへ助力を求めます。

ワンダは穏やかな果樹園で暮らしているように見えますが、会話の中でストレンジがまだ教えていない「アメリカ」という名前を口にします。次の瞬間、果樹園は幻だったと判明。周囲は赤黒く荒れ果て、ワンダはすでにダークホールドを使い続けていました。

アメリカを襲っていた黒幕はワンダ自身でした。彼女はアメリカの能力を奪い、ビリーとトミーが実在する別宇宙へ移動して、もう一度母親として暮らそうとしていたのです。

ストレンジは「子どもたちのいる宇宙へ行くだけなら、アメリカの力を借りればいい」と考えますが、ワンダはそれでは足りないと説明します。子どもたちが病気になった時、治療法のある別宇宙へ行くためにも、いつでも自由にマルチバースを渡れる力が必要だというのです。しかしその理屈は、起こるかもしれない未来の不幸まで排除するために他人の命を奪うというものです。ここでワンダの「母として守りたい」という感情が、すでに際限のない支配欲へ変化していることが分かります。


5. 『ワンダヴィジョン』から続く喪失

ワンダは『インフィニティ・ウォー』で自らヴィジョンを破壊した直後、サノスに時間を戻され、もう一度ヴィジョンを殺されました。『エンドゲーム』後も彼は戻りません。

『ワンダヴィジョン』では悲しみからウエストビュー全体を無意識に支配し、ヴィジョン、ビリー、トミーがいる理想の家庭を作ります。しかし住民を苦しめている現実を知り、最後は自らヘックスを解除して家族を再び失いました。

その後、アガサ・ハークネスから奪ったダークホールドで自分の力を学び始めます。『ワンダヴィジョン』の最後では、山奥でダークホールドを読むワンダが、どこからかビリーとトミーの助けを求める声を聞いていました。本作はそこから直接つながっており、ワンダは「自分が作った幻」ではなく、別宇宙に実在する子どもたちを知ってしまいます。

重要なのは、ウエストビューの事件の反省が完全に消えたわけではないことです。ワンダは自分を悪人だとは思っておらず、「奪われた家族を取り戻すだけ」と認識しています。だからこそダークホールドの腐敗は危険です。彼女の愛情や罪悪感を消すのではなく、それらを利用して残酷な行動を本人に正当化させるからです。

ワンダは喪失を受け入れる代わりに、マルチバースで喪失そのものを無かったことにしようとします。『ワンダヴィジョン』では現実を書き換えて理想の町を作りましたが、本作ではさらに規模が拡大し、別宇宙そのものを「自分が望む人生の代替品」として扱い始めています。


6. カマー・タージ防衛戦

ストレンジはアメリカをカマー・タージへ連れて行き、ソーサラー・スプリームのウォンと魔術師たちに保護を求めます。そこへスカーレット・ウィッチとなったワンダが単身で現れます。

ワンダは結界を力ずくで破るだけでなく、魔術師たちの精神へ入り込み、恐怖や疑念を広げて防衛線を崩します。ストレンジは説得を試みますが、ワンダは「自分がルールを破れば悪人、あなたが破れば英雄」と反論します。

『ノー・ウェイ・ホーム』で危険な記憶改変魔術を行ったストレンジにも独断的な面があります。本作は、危険な力を自分の判断で使うという点で、二人が完全な正反対ではないことを示します。


7. Earth-838へ

ワンダはカマー・タージを突破し、多くの魔術師を倒します。追い詰められたアメリカが能力を暴発させ、ストレンジと二人で無数の宇宙を通過。最終的にEarth-838へ到着します。

一方、ワンダはダークホールドの禁術ドリームウォークを使用します。これは別宇宙の自分へ意識を送り、その肉体を乗っ取る魔術です。彼女はEarth-838でビリーとトミーを育てている自分へ憑依し、二人を追い始めます。

ここから戦いは「別世界へ逃げれば終わる」ものではなくなります。ワンダは別世界の自分そのものを利用し、マルチバースを越えて追跡できる存在になっています。


8. アメリカが失った二人の母親

Earth-838の街で、アメリカは過去の記憶を映す装置に触れます。幼い彼女は二人の母親と平穏に暮らしていましたが、蜂に驚いた瞬間に初めて能力を暴発。星形のポータルが現れ、母親たちはその中へ吸い込まれてしまいました。

以来、アメリカは「自分の力が家族を奪った」と考えています。ポータルは危険が迫ると現れますが、自分では行き先を決められません。

彼女もまたワンダと同様に家族を失った人物ですが、ワンダが他人を犠牲にして家族を取り戻そうとする一方、アメリカは自分の力そのものを恐れて逃げ続けています。この対比が終盤の成長へつながります。

さらにアメリカが「別世界の自分を持たない」という点は非常に特殊です。ストレンジやワンダが無数の別人生を見て迷うのに対し、アメリカには比較対象となる別の人生がありません。彼女が成長するために必要なのは「もっと良い自分を別世界に探すこと」ではなく、今の自分の力を受け入れることです。


9. Earth-838のイルミナティ

ストレンジとアメリカはEarth-838のサンクタムへ向かい、この世界のバロン・モルドと出会います。しかし二人は薬で眠らされ、秘密組織イルミナティの前へ連行されます。

メンバーは、モルド、インヒューマンズの王ブラックボルト、ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック、ペギー・カーター/キャプテン・カーター、この世界のマリア・ランボー/キャプテン・マーベル、そしてX-MENを率いるチャールズ・エグゼビア/プロフェッサーXです。

ファンタスティック・フォーやX-MENなど、これまでMCU本編とは別に扱われてきた存在が、マルチバース上で共存できることを示す非常に重要な場面です。

それぞれの存在にも意味があります。リード・リチャーズはファンタスティック・フォーというチームが別宇宙にはすでに存在することを、ブラックボルトはインヒューマンズという種族・勢力の存在を示します。キャプテン・カーターはペギーがスーパーソルジャーとなった可能性、マリア・ランボーはキャロルではなく彼女がキャプテン・マーベルとなった可能性です。そしてプロフェッサーXはX-MENとミュータントの世界へつながる象徴として登場します。

ただし彼らはEarth-616の同名人物そのものではありません。本作が示したのは「これらの人物や組織がMCUのマルチバース内に存在できる」という可能性であり、616側の歴史まで同じだと確定したわけではありません。


10. Earth-838のストレンジの罪

イルミナティが最も警戒していたのはワンダではなく、ドクター・ストレンジでした。

Earth-838のストレンジはサノスを倒す方法を求めてダークホールドへ手を出し、ドリームウォークを繰り返した結果、別宇宙との境界が崩れるインカージョンを発生させ、一つの宇宙を滅ぼしました。

その後ヴィシャンティの書を見つけ、仲間とサノスを倒すことには成功します。しかし自らの罪を認め、イルミナティの判断を受け入れ、ブラックボルトによって処刑されました。

つまり別世界のストレンジは、世界を救った英雄であると同時に世界を一つ滅ぼした人物でもあります。ストレンジの独断がマルチバース規模では最大級の危険になり得ると示されます。

Earth-838では彼の死の真相は公表されず、「サノスとの戦いで命を落とした英雄」として像まで建てられていました。イルミナティは世界の秩序を守るため、ストレンジの罪も処刑も秘密にしています。ここにも「少数の強者が世界のために何を隠し、何を決めてよいのか」という問題があります。

プロフェッサーXだけは616のストレンジを完全には見放さず、「道を外れたからといって、すべてのストレンジが同じ結末になるとは限らない」と考えます。この信頼が、後にストレンジがヴィシャンティの書へ向かう最後の助けになります。


11. ワンダゴア山とダークホールドの原典

Earth-616では、ワンダが最初にドリームウォークを始めた直後、生き残った魔術師の一人がダークホールドを破壊し、Earth-838のワンダとの接続を強制的に断ちます。写本を失ったワンダはウォンを脅し、ダークホールドの魔術が元々刻まれていた場所を聞き出します。

二人が向かったのがワンダゴア山です。山の神殿にはダークホールドの呪文そのものが刻まれ、スカーレット・ウィッチの姿まで彫られていました。ウォンはここが彼女の墓ではなく**「玉座」**だと理解します。

つまりダークホールドは単独の本ではなく、この古代神殿の知識を写したものにすぎません。ワンダは原典の魔術を使って再びEarth-838の自分へドリームウォークし、アメリカを奪うためイルミナティ本部へ向かいます。


12. ワンダによるイルミナティ壊滅

Earth-838のワンダへドリームウォークしたスカーレット・ウィッチは、イルミナティ本部へ侵入します。

彼女はブラックボルトの口を消して自らの声で頭部を破裂させ、リードの身体を分解。キャプテン・カーターをその盾で倒し、キャプテン・マーベルも激闘の末に撃破します。プロフェッサーXは精神世界で838のワンダを救い出そうとしますが、スカーレット・ウィッチの意識に殺されます。

地球を守る最上位の英雄たちが短時間で壊滅することで、ダークホールドに支配されたワンダがマルチバース級の脅威へ達していることが強烈に示されます。

同時に、この戦闘はワンダが「子どもに会いたいだけ」と語る一方、目的を阻む相手をほとんど躊躇なく殺せる状態まで変化したことを示します。彼女はEarth-838のワンダの身体を使っているため、別世界の自分に殺人の記憶と結果まで背負わせています。家族を求める行動が、別世界の家族を持つ自分自身まで傷つけているという矛盾がここで最大化します。


13. ヴィシャンティの書の消失

ストレンジはEarth-838のクリスティーン・パーマー、アメリカとともに逃走します。838のクリスティーンはマルチバース研究者で、ストレンジの世界をEarth-616と分類していました。

三人は異世界の狭間へ入り、ついにヴィシャンティの書へ到達します。しかしワンダも追いつき、書を焼き払います。さらにアメリカをEarth-616へ連れ去り、ストレンジとクリスティーンを崩壊した別宇宙へ飛ばします。

「最強の魔導書を手に入れて自分が敵を倒す」という解決策が消えたことで、ストレンジは自分以外の誰かへ勝敗を託すことを求められます。


14. シニスター・ストレンジ

崩壊した宇宙で、二人はダークホールドを持つシニスター・ストレンジと出会います。

彼もまたクリスティーンと結ばれなかった人生を受け入れられず、ダークホールドを使って「自分が幸せになれる宇宙」を探し続けていました。しかしどの宇宙でも二人が結ばれていないと知り、やがて他のストレンジたちまで殺すようになります。

これはワンダと同じ構造です。二人とも「別宇宙なら望んだ人生がある」と考え、現実を受け入れられずに壊れました。616のストレンジは音符を武器にした魔術戦で彼を倒し、危険を承知でそのダークホールドを使います。


15. 死体へドリームウォークするストレンジ

別宇宙に取り残されたストレンジは、冒頭で死亡しEarth-616へ流れ着いていたディフェンダー・ストレンジの死体へドリームウォークします。

死者を操ったことで呪われた魂たちに襲われますが、838のクリスティーンに励まされ、逆に魂を束ねて自分の力へ変えます。そして腐敗した自分自身の死体を使い、ワンダゴアへ向かいます。

ここでもストレンジは禁術を使っています。しかし目的は「自分がすべてを決める」ことではありません。彼がアメリカへ伝えようとしているのは、彼女の力を奪う方法ではなく、彼女自身がその力を使えるという信頼です。


16. アメリカが初めて自分の力を選ぶ

ワンダゴアで、ストレンジはアメリカへ「君は力を制御できる」と伝えます。これまでのポータルも完全な偶然ではなく、必要な場所へ彼女を導いてきたのではないかと考えたのです。

冒頭のディフェンダー・ストレンジはアメリカの力を奪おうとしました。しかし616のストレンジは、彼女自身へ判断を返します。

アメリカは初めて意思を持ってポータルを開き、ワンダを倒すためではなく、Earth-838のビリーとトミーの前へ送ります。ストレンジが「自分でナイフを握る」ことをやめた瞬間であり、本作における最大の成長です。


17. 子どもたちに恐れられるワンダ

ワンダはついに、求め続けていたビリーとトミーを目の前にします。しかし二人は616のワンダを母親とは認識せず、本当の母である838のワンダを守りながら、彼女を怪物として恐れます。

「子どもたちのため」と信じて行ってきた行為の結果、その子どもたちから恐怖の対象として見られたことで、ワンダはようやく自分が何になったのかを直視します。

838のワンダは彼女を責めず、子どもたちは愛されると伝えます。ワンダはEarth-616へ戻り、自分の願望を叶えるのではなく、同じ悲劇を二度と生まないための選択をします。


18. ダークホールドの消滅

ワンダはワンダゴア山を崩壊させます。彼女自身も山の中へ消え、生死はその場では明確に確認されません。崩壊の直前には赤い光が見えますが、本作単体ではそれが生存を意味するのか、最後の魔術なのかは断定できません。

同時に、彼女はマルチバースに存在するすべてのダークホールドを破壊します。自分を堕落させた力を捨てるだけでなく、別世界の誰かが同じ禁術を使う道まで断ったのです。

『ワンダヴィジョン』でもワンダは最後に自分の理想世界を消して住民を解放しました。本作でも最終的には願望を手放しますが、今回は多数の犠牲を出した後です。彼女の物語は「悲しみそのもの」ではなく、悲しみを受け入れず、力で現実を書き換え続けた結果として描かれます。


19. クリスティーンを手放すストレンジ

ストレンジはEarth-838のクリスティーンへ、どの宇宙でも彼女を愛していると認めます。同時に、自分は傷つくことを恐れ、人を本当の意味で近づけられなかったとも打ち明けます。

しかし彼は「別世界のクリスティーンなら自分のものにできる」とは考えません。シニスター・ストレンジやワンダとは違い、別世界に望んだ人生が存在しても、それは自分の人生ではないと受け入れます。

事件後、アメリカはカマー・タージに残って魔術の修行を始めます。ストレンジもEarth-616へ戻りますが、ダークホールドを使用した影響から、額に第三の目が開きます。


ミッドクレジット

ストレンジの前に、紫色の衣装を着た魔術師クレアが現れます。

彼女はストレンジがインカージョンを引き起こしたと告げ、修復への協力を求めます。空間を切り裂いた先にはダーク・ディメンションと思われる世界が広がり、ストレンジは第三の目を開いて彼女と向かいます。

クレアはコミックでドクター・ストレンジと非常に深い関係を持つ人物。本編で説明されたインカージョンが、次はストレンジ自身の問題として続いていることを示します。


主要キャラクターまとめ

スティーヴン・ストレンジ/ドクター・ストレンジ

世界を何度も救った魔術師ですが、本作では**「自分が最善の判断を下せる」という確信**そのものを試されます。

ディフェンダー・ストレンジはアメリカを犠牲にしようとし、Earth-838のストレンジは禁術によって一つの宇宙を滅ぼし、シニスター・ストレンジはクリスティーンへの執着から壊れました。別世界の自分たちは、616のストレンジが一歩間違えれば到達し得た姿です。

最後はアメリカの力を奪わず本人を信じ、クリスティーンへの未練も「別世界の彼女を奪う」方向へ向けません。前作からさらに進み、自分が主導権を握らなくても他人を信頼することを学びます。

ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ

『ワンダヴィジョン』でスカーレット・ウィッチとして覚醒し、ダークホールドを手にしたワンダ。本作では事実上の最大の敵です。

出発点は「もう一度子どもたちと暮らしたい」という願いですが、ダークホールドによって執着が増幅され、アメリカの命や別世界のワンダの人生まで犠牲にできる状態になります。

それでも最後に彼女を止めるのは、最も会いたかったビリーとトミーです。子どもたちから恐れられたことで、自分が守りたかった存在にとっての怪物になったと理解し、全宇宙のダークホールドを破壊します。『ワンダヴィジョン』から続く喪失の物語が、最も危険な形で爆発した作品です。

アメリカ・チャベス

星形のポータルでマルチバースを移動できる少女。MCUでは本作が初登場です。

他の人物と違って別世界の自分が存在しないとされ、その唯一性をワンダに狙われます。幼少期に能力を暴発させて二人の母親と離れ離れになったため、自分の力を恐れ続けていました。

しかしストレンジから「力は必要な場所へ導いていた」と教えられ、終盤では初めて自分の意思でポータルを操作します。事件後はカマー・タージへ残り、今後マルチバース関連で非常に重要になり得る存在です。

ウォン

ストレンジがブリップで消えていた期間にソーサラー・スプリームとなった魔術師。カマー・タージを率い、組織全体の責任者としてアメリカを守ります。

ワンダに敗れてワンダゴアへ連れて行かれますが、最後までストレンジとアメリカを支援します。本作でもソーサラー・スプリームはストレンジではなくウォンである状態が続いています。

クリスティーン・パーマー

Earth-616のクリスティーンは別の男性と結婚し、ストレンジとの恋愛には区切りをつけています。一方Earth-838のクリスティーンはマルチバース研究者として登場します。

838のクリスティーンとの旅を通じて、ストレンジは自分が彼女を愛しながらも、傷つくことを恐れて人を近づけられなかったと認めます。ワンダやシニスター・ストレンジとの違いを決定づける存在です。

イルミナティ

Earth-838を守る秘密組織。モルド、ブラックボルト、リード・リチャーズ、キャプテン・カーター、キャプテン・マーベル、プロフェッサーXで構成されます。

サノスを倒した一方、インカージョンを起こした仲間のストレンジを処刑するという厳しい判断も行いました。ファンタスティック・フォー、X-MEN、インヒューマンズなどの要素をマルチバース上でMCUへ接続する存在でもあります。

ブラックボルト

インヒューマンズの王。声そのものが破壊兵器になるため、通常は話しません。Earth-838のストレンジを処刑した人物でもあり、イルミナティの「最終手段」を象徴します。


リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック

ファンタスティック・フォーの一員で、非常に高い知性を持つ科学者。インカージョンの危険性を616のストレンジへ説明します。本作はリード・リチャーズという人物がMCUのマルチバース内に存在することを初めて実写映画で明確に示します。


ペギー・カーター/キャプテン・カーター

スティーブではなくペギーがスーパーソルジャーとなった世界の英雄。『ホワット・イフ...?』でも同様の可能性が描かれましたが、本作のEarth-838版が同一人物・同一世界だと断定されているわけではありません。


マリア・ランボー/キャプテン・マーベル

Earth-616ではキャロル・ダンヴァースの親友だったマリアが、この世界ではキャプテン・マーベルになっています。「能力を誰が得るか」によって歴史が変わるマルチバースらしい存在です。


チャールズ・エグゼビア/プロフェッサーX

X-MENを率いることで知られる強力なテレパス。イルミナティの中では比較的ストレンジへ理解を示し、「人は変われる」という可能性を信じます。ワンダの精神へ直接入り、838のワンダを救おうとする最後の人物でもあります。

別世界のドクター・ストレンジたち

ディフェンダー・ストレンジは大局のためアメリカを犠牲にしようとし、Earth-838のストレンジはサノスを止めるため禁術へ手を出して宇宙を一つ滅ぼし、シニスター・ストレンジはクリスティーンへの執着からダークホールドに堕ちました。

三人に共通するのは、「自分が正しい選択をできる」という強い確信です。616のストレンジは彼らを通じて、自分自身にも同じ危険性があると理解します。

重要アイテム・組織

ダークホールド

「呪われた本」と呼ばれる危険な魔導書。『ワンダヴィジョン』でアガサ・ハークネスが所有し、ワンダが持ち去りました。

強大な魔術を与える一方、読む者の願望や弱さへ入り込んで精神を腐敗させます。ドリームウォークもこの書に記された禁術です。実際にはワンダゴア山の壁へ刻まれた呪文の写本で、最後にワンダが原典を破壊したことで全宇宙のダークホールドも消滅します。


ヴィシャンティの書

ダークホールドと対をなす魔導書で、悪へ対抗するために必要な力を与えるとされています。Earth-838ではストレンジたちがこれを用いてサノスを倒しました。

616のストレンジも切り札として求めますが、使用前にワンダが焼却。最強の道具へ頼る道が失われたことが、アメリカを信じる決断へつながります。


ドリームウォーク

別宇宙の自分へ意識を送り、その肉体を乗っ取るダークホールドの禁術。ワンダはEarth-838の自分へ、ストレンジは死亡したディフェンダー・ストレンジへ使用します。

他宇宙へ強く干渉する行為であり、インカージョンへつながる危険も持ちます。


インカージョン

二つの宇宙の境界が崩れ、世界同士が衝突する現象。最悪の場合、一方または両方の宇宙が滅びます。

Earth-838のストレンジはこれを起こして一つの宇宙を滅ぼしました。ミッドクレジットでは616のストレンジもインカージョンを引き起こしたとクレアから告げられ、今後のマルチバース物語に直結します。


ワンダゴア山

ダークホールドの原典となる呪文が刻まれた古代神殿。スカーレット・ウィッチの姿まで刻まれており、彼女のための「玉座」として存在していました。

本作終盤でワンダ自身が崩壊させ、ダークホールドの力の源を断ちます。


MCU的に重要なポイント

  • アメリカ・チャベスがMCU初登場。 マルチバースを自力で移動できる特殊な存在としてカマー・タージへ残る。
  • MCUの中心世界がEarth-616と劇中で明確に呼ばれる。 Earth-838の研究者クリスティーンによる分類。
  • イルミナティが初登場。 リード・リチャーズ、プロフェッサーX、ブラックボルト、キャプテン・カーターなど、複数シリーズにつながる存在が同一宇宙へ登場する。
  • インカージョンが本格導入。 マルチバース移動は宇宙そのものを破壊する危険を持つと判明。
  • 全宇宙のダークホールドが破壊される。 『ワンダヴィジョン』から続く禁書の物語に大きな区切りがつく。
  • ワンダの生死はこの時点では明示されない。 ワンダゴア山の崩壊に巻き込まれる。
  • ストレンジに第三の目が発現。 ダークホールド使用の代償が残る。
  • クレアが初登場。 インカージョンへの対処を求め、ストレンジをダーク・ディメンションへ導く。

作品のテーマ

本作の中心にあるのは、「別の人生なら幸せだったのではないか」という後悔をどう受け入れるかです。

ストレンジはクリスティーンと結ばれなかった人生を生き、ワンダはヴィジョンと子どもたちを失い、アメリカは自分の力によって母親たちと離れ離れになりました。マルチバースは彼らに「別世界なら望んだ人生が存在する」と実際に見せます。

ワンダとシニスター・ストレンジは、その可能性を自分のものにしようとして破滅します。一方616のストレンジは、別世界に愛するクリスティーンがいてもその人生を奪わず、アメリカの力も自分のものにしません。

もう一つのテーマは**「すべてを自分でコントロールしないこと」**です。外科医時代からストレンジは自分が最も正しい判断をできると考えてきました。しかし最後には、自分が敵を倒すのではなくアメリカを信じます。

無限の世界を描きながら、本作が肯定するのは「もっと都合のいい世界を探すこと」ではありません。自分が実際に生きている世界の喪失や後悔を受け入れ、その中で次の選択をすることです。


まとめ

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、ストレンジが異世界を巡る冒険であると同時に、ストレンジとワンダが「失った幸福」とどう向き合うかを対比する物語です。

ワンダはダークホールドに導かれ、別世界の家族を自分のものにしようとして多くの命を奪います。しかし最も会いたかったビリーとトミーから恐れられたことで自分の姿を理解し、最後は全宇宙のダークホールドを破壊します。

ストレンジも別世界の自分たちが独断と執着によって破滅する姿を見ます。そして最後にはアメリカの力を奪うのではなく、彼女自身へ選択を任せます。

さらにEarth-616、Earth-838、イルミナティ、インカージョン、クレアなどによって、MCUのマルチバースは今後の巨大な危機へつながる具体的なルールを持ち始めました。

**無限の別世界が存在しても、自分が生きるべき人生は今ここにある。**それが、狂気に満ちたマルチバースを巡ったストレンジがたどり着く答えです。